【鳥濱トメと特攻隊ー『帰って来た蛍』で描かれる隊員-】
本日は、当会が共催しているカートエンターテイメント舞台『帰って来た蛍』で描かれている、蛍になって帰って来た
宮川三郎少尉のお話をご紹介いたします。
宮川 三郎少尉 享年二十
昭和元年六月五日生 新潟県小千谷市出身
昭和二十年六月六日 陸軍特別攻撃隊第一〇四振武隊
戦死後 二階級特進 少尉任官
当会で共催させていただいている、舞台『帰って来た蛍』や、数々の映画や文庫本などで伝えられてきた宮川三郎少尉のお話をご紹介します。
(赤羽礼子 石井宏 著書「ホタル帰る」より抜粋、加筆修正)
大東亜戦争末期、敗戦の色濃くなった日本軍が取った「と号作戦」いわゆる「特攻」。10代~20代の若い隊員たちが航空機に250キロ爆弾を抱え、連合国の艦船に突入する百死零生の攻撃方法です。宮川少尉も特攻隊員でした。
宮川三郎少尉は昭和二十年五月半ば、特攻基地のある「知覧」の富屋食堂に姿を現しました。生まれは雪国「新潟」の小千谷、色白でハンサムな男性でした。
知覧に近い「万世飛行場」から、一度は特攻出撃したものの、機体の調子が悪く帰還した経緯がありました。そのせいで、生き残りの烙印を押され不忠の汚名を着せられました。
そんな宮川少尉といつも連れ立っていたのは滝本伍長でした。彼もまた、同じく万世から出撃し帰還した一人でした・・・。
宮川少尉は、富屋食堂で奇跡とも言える再会を果たします。その相手は「第五十振武隊」の松崎義勝伍長です。
松崎伍長は、宮川の故郷、新潟県小千谷高等小学校在籍当時の良きライバルでした。2年間ではありますが、机を並べた仲でした。卒業後、それぞれの道に進んでいたので、まさに「奇跡」と呼べる再会でしたが、そのわずか二日後、松崎伍長は出撃し還らぬ人となりました。
そしていよいよ、宮川少尉にも出撃の命が下ります。
運命の出撃は六月六日。その前日は宮川少尉にとって満二十歳の誕生日でもあったのです。
鳥濱トメは出撃前夜、富屋食堂で心づくしの手料理を振る舞い、宮川少尉の誕生祝いと出撃のはなむけとしました。
トメの愛娘である礼子や、知覧高等女学校の生徒たちは「なでしこ隊」として、宮川少尉ら特攻隊員の身の周りの世話をしており、出撃前日には血染めの日の丸の鉢巻きを作って手渡していました。宮川少尉はお礼に、当時としては高価だった、兄からもらった万年筆を「俺だと思ってくれ」と礼子に渡しました。
出撃前夜は空襲警報が鳴り響き、宮川少尉と滝本伍長、そしてトメと愛娘のふたりは防空壕へ2~3回入りました。防空壕を出た5人が外を飛び交う蛍に見入ったちょうどその時、宮川少尉は、ある約束をします。
「おばちゃん、俺、心残りのことはなんにもないけど、死んだらまた、おばちゃんのところへ帰ってきたい。なぁ、滝本。」滝本もうなずきました。
「そうだ、蛍だ、俺、この蛍になって帰ってくるよ。」
トメは「ああ、どうぞ帰っていらっしゃい。」
宮川少尉は腕時計を見ながら「九時だ。じゃ、明日の晩の今頃に帰って来る事にするよ。俺たちが入れるように、店の正面の引き戸を少し開けておいてくれよ」
トメは「わかった。そうしておくよ。」と答えます。
宮川少尉はさらに続けて、こう言ったのです。
「俺が帰ってきたら、みんなで<同期の桜>を歌ってくれよ」
トメは涙をこらえながら伝えました。
「わかった、歌うからね・・・。」
出撃の朝は雨が降りしきっていました。
その日の夕刻、トメが店を片付けていると出撃したはずの滝本伍長が入ってきました。宮川少尉と滝本伍長の二人は、出撃したものの雨で視界が悪かったため、沖縄までたどり着くことができるかどうか怪しいほどでした。滝本伍長は二度、三度となく宮川少尉に引き返すよう促しますが、宮川少尉は「おまえは帰れ、俺はいく」という身振りで、一向に戻ろうとせず、ついに、滝本伍長はひとりで知覧に引き返してきました。
夜になってラジオが9時を告げ、ニュースが始まってすぐのことでした。わずかに開いた表戸の隙間から一匹の大きな蛍が入ってきたのです。
二人の娘たちは、ほぼ同時にその光景に気がつき叫び声をあげました。
「お母さーん、宮川さんよ、宮川さんが帰ってきたわよ!」
トメは息を呑みました。
そこには、紛れもなく帰ってきた「宮川少尉」がいたのです。気がつくと、店にいた兵隊たち、滝本伍長、そしてトメと娘たちは「同期の桜」を歌い始めていました。
貴様とおれとは
同期の桜
おなじ航空隊の
庭に咲く
咲いた花なら
散るのは覚悟
みごと散りましょ
国のため
貴様とおれとは
同期の桜
離れ離れに
散らうとも
花の都の
靖国神社
春の小枝で
咲いて逢ふよ
宮川少尉はトメたちとの「約束」を果たしました。そして、現代を生きる私たちに日本の未来を託し、今も蛍となって見守ってくれていると思います。
新型コロナウイルスで大変な情勢となっていますが、日本の為に出撃された隊員に想いを馳せ、何とかこの国難を乗り越えられるよう頑張りたいですね。
今日は、宮川三郎少尉の御命日です。
合掌